4歳児の長女を寝かしつけるまでの暗闇の中での会話。
最近4歳の長女は「なんでなんで」を連発する。
この日の夜もなんでなんでのオンパレード。でも私はこのなんでなんでに答えるのが意外と楽しい。
そんな長女は最近、私と離れる恐怖に怯えているみたい。視界から親が消える頻度が上がったからかしら。2歳の次女がウロチョロするからなあ・・・。
「◯◯ちゃんが、大人になって結婚してこの家から出て行ったらどうする?お母さん悲しい?」
なんて、「なんでなんで」に真剣に答えていったらここまで会話が発展する始末。
「なんで、お母さんは、お母さんのお母さんと離れてても寂しくないの?」
「それはお父さんがいるからだよ」
「◯◯ちゃんも、誰かと結婚したらこの家を出て行くの?」
「どっちでもいいんだよ」
「◯◯ちゃん・・・・いやだよ・・・お母さんと離れたくない・・・」
と泣きそうな声で暗闇の中話す長女をギュッと抱きしめた。
「大丈夫だよ。お母さんはずっとそばにいるんだから。」
「でもね・・・お母さんがおばあさんになって死んじゃったら、◯◯ちゃん・・・お母さんに会えなくなっちゃう・・・◯◯ちゃんお母さんがおばあちゃんになって欲しくないよ・・・」
とより一層ヒクヒクしだす長女が可愛くて可愛くて。
「大丈夫、そんなのまだまだ先だから。それにね、死んでもね、お母さんはお星様になって◯◯ちゃんにいつでも会えるから」
こんな絵本の中ようなセリフを自然と言う自分に驚く。
「でもね・・・どうやって会うの?」
「ピカピカって◯◯ちゃんの頭の中に会いに行くよ」
「でも・・・・どうやって、手を繋ぐの?どうやって一緒に毛布をかけるの?」
か弱い声でより一層泣きそうになりながら尋ねる長女をより強くギュッと抱きしめ、手を握り毛布を一緒にかけた。
「◯◯ちゃん、お母さんにお星様になって欲しくない。おばあちゃんになって欲しくない」
「大丈夫大丈夫。ずっとずーーっと一緒にいるからね。絶対死なないよ」
「うん。お母さん毛布からはみ出てるよ。いいの?」
「いいんだよ。」
長女は私に毛布をかけ私の胸にぎゅーっと頭を埋めた。多少「絶対死なない」という言葉に後ろめたさを感じながら、長女を抱きしめた。
ああ、この瞬間が永遠に残って欲しい。いつか、夜寝る前にギュッと抱きしめることもなくなるだろう。
純粋に正直に、「お母さんがいないと泣いちゃう」なんて言ってくれる日もきっとそんなに長く続かないだろう。
こんなに純粋に『お母さんがすべてから守ってくれる』と本気で私が思っていたのはいつまでだっけ。
ひとりぼっちになる恐怖に怯えている長女の手を強く握って抱きしめた。少し涼しくなった夏の終わりの夜のこの瞬間をずっと覚えていたい。
「◯◯ちゃん、一人ぼっちになりたくない。」
こんな孤独の恐怖を知るようになった4歳の長女に、立派な一人の人間になったなあ、としみじみ成長を感じた夜。
みんな、人知れず孤独の恐怖と闘っている。誰もが必ず悩む道。考えること。
きっと、4歳の長女も2歳の次女も、いつか必ず通る道。きっと茨の道になるだろう。
その時に、少しでも今日のような瞬間の記憶が助けになればいいな。なんて本気で思う。
夜に鳴り響くバイクの音を聞いて
「バイクの人、毛布かけなくて寒くないのかなあ」
って気にする長女が可愛すぎて更にぎゅっと抱きしめた。
抱きしめながら・・・こう思った。子供達のために自分を大切にしないと。長生きしないと。なんて、この瞬間初めて心から強く思った。
不思議なことに今までは私がいなくても別にこの子達は強く生きていける、なんてこの瞬間まで本気で思っていた。
滑稽なほど本気で。
でもこの日の夜のこの瞬間、本気でこの子達のために、健康で生き続けなければ、と確固たる決心が生まれた。
自分に依存させる、というわけではなく、ただ単純に「この子たちを悲しませる訳にはいかない」ってだけで。
あの私がこんな事を思うなんて。
本当に子供達は私を変えてくれる。
寝る前の暗闇の中「お母さんがおばあちゃんになって欲しくない」と不安がる4歳の長女を抱きしめた涼しい夜。蝉ではなく鈴虫が鳴いている夜。
暗闇の中で生まれたこの瞬間のこの気持ちをずっと、ずーっと忘れないようにしたい。
長女が将来、今の私のように親と離れて暮らすようになっても、私はこの日の記憶を覚えて生きていたい。