私は子どもの頃、ケーキが食べたくて食べたくてたまらなかった。
毎日でも、ケーキを食べたかった。
お母さんに「今日ケーキがあるよ」って言われるだけで、1日が、澄んだ青空に太陽の光かキラキラと輝くように幸せな気分になれた。
ケーキを人質にとられたら何でもしてしまうぐらい、ケーキに魅了されていた。
「ケーキ」という響きだけで、なんだか体がウズウズした。
めんどくさいゴチャゴチャした思考だらけの頭の中が、「ケーキがある」というだけでケーキ一色になった。
ケーキを食べると、それだけで満たされた。それだけで幸せだった。
私にとってケーキはそれだけで幸せになれる魔法だった。
だけど、その魔法は時に悪魔の魔法だった。
「ケーキを食べたい食べたい」という思考に脳が支配され、他の思考が鈍った。
「ケーキを食べれない=不幸」
こんな方程式までうまれてしまった。
まるで、目の前に大好物のニンジンをぶら下げられた馬みたいに、ニンジンしか見えなくなった。
そして、ニンジンをやっと食べれても、しばらくたったら、またニンジンが欲しくなる。
ニンジンのことで頭はいっぱい。他のことは放ったらかし。
ニンジン以外をなかなか見ることができない。
ニンジンの後ろに広がる周りの景色を客観的に集中してしっかりと見れない。
プラス、若い女の子特有の「太りたくない」執着にも大分苦しんだ気がする。
「食べたい、だけど食べたらダメだ、だけど食べちゃう・・・」そんな無駄な思考の堂々巡りにずいぶん無駄なエネルギーを消耗した気がする。
そうやって、ケーキの魔力にしばらく取り憑かれていた。
だけど、主婦になって子育てに奔走して年を重ねているうちに・・・
気付いたらケーキの魔法は解けていた。
人間は年を経るにつれ身体の細胞が入れ替わるって聞く。
私の体は細胞達が入れ替わって、昔の私とは全く別の何かに変わってしまったのだろうか。
これがきっと老化ってやつなのだろう。
とにかく、もう今の私にはケーキの魔法がかからなくなってしまった。
もう、頭の中がケーキだけでいっぱいになることも、ケーキひとつで天にも登るように幸せになることも出来なくなってしまった。
・・・出来なくなってしまった?
それは、悲しいことかどうかもわからない。
ただ、目の前のニンジンでがむしゃらに走り回ることはもう出来ない。
あのエネルギーはもう湧かない。
だけど、もう目の前にニンジンがぶら下がっていたとしても、無駄にそれに振り回される事もない。
ニンジンを無視して、その向こう側の景色もしっかりと見ることができる。悲しいほど冷静に。
もう、ケーキ一つですごいエネルギーが湧くこともないが、それに囚われることもない。
ある意味自由になれる。
それは、年をとることのメリットかもしれない。
だけど・・・なんだか、ケーキ一つであんなにも幸せな気分になれた昔の私が、もう手の届かない眩しい光のようにも見えるのです。
哀れで、情けなくて、だけど愛おしいような儚い光。
あの頃のケーキの強力な魔法は今の私にはもうかからない。
若い頃は、どんな魔法にもかかりやすかった。
魔法で幸せになれた。
その分、苦しむことも多かったけれど。
だけど、それがきっと「若さの美しさ」なのだろう。
きっとこれからは「年を経た美しさ」に気付いていくべきなのだろう。
何事も渦中では気付きにくい、気付けない。
それはそれで諦めるべきで。
とにかく、今を慈しんで1日1日を大事に生きていけたらいいなって思う。
1日1日を取りこぼすことなく、しっかり噛み締めて味わっていけたら・・・それだけで充実した人生になる気がするのです。
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