悩みすぎな私の子育てライフ

ある主婦の生存軌跡を残すメモ

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子どもの初めてのもふもふペットとその死の日記。

私の小学生の娘は動物が大好きだ。

 

特に餌をあげるのが好きだ。

 

だから、公園にいって、鯉や、鳥に餌をあげれるなら、必ずあげる。

 

何で、そんなに動物に餌をあげるのが好きなのか分からない。

 

ただただ好きなのだ。

 

この間、餌やりができる動物園に行ったも、ひたすら餌をあげていた。

 

私が「もう帰ろうよー」と言っても「まだいたい」と言って、閉園まで餌をあげ続けた。

 

とにかくうちの娘は動物が好きだ。

 

だから、ペットを飼うのが夢だった。

 

私がペットを飼うのをずっと拒否してきたから。

 

だって、結局はペットの世話は母親の役目になるじゃん。

 

だから、ペットを飼うのは嫌だった。私はこれ以上自分の負担を増やしたくなかった。

 

ペットは大変だって知っているから。

 

だけど、娘のペットを飼いたい願望はしぶとかった。

 

だから、こんな約束した。

 

「カブトムシを飼って、しっかり世話を出来たら、ペットを飼っていいよ」って。

 

そう、娘は虫じゃなくて、もふもふした動物が飼いたかったのだ。

 

そして、娘は、きちんと私が出したミッションをこなした。

 

そして、夫が「ハムスターぐらいなら買ってあげてもいいんじゃない?」

 

と言った。

 

私はついに折れて、「じゃあ、いいよ。だけど、私は絶対世話しないからね!」

 

そんなこんなで、娘と夫はペットショップで、念願のハムスターを飼いに行った。

 

家に、娘がフワフワの目がぱっちりとした小さいハムスターを大事に抱えて持って帰ってきた。

 

娘が、長い時間をかけて選んだとっておきのハムスター。念願の初ペット。コツコツと貯めたお小遣いで買ったペット。

 

「名前決めた!雪ちゃん」

 

娘は、雪ちゃんを本当に大事に大事に世話した。

 

ハムスターの育て方についてきっちり調べて、ノートにぎっしりと書いたりもした。

 

資料も沢山集めた。

 

餌やりも、ちゃんと重さを測って毎日与えた。

 

過保護すぎるほど手間暇をかけて雪ちゃんを世話した。

 

友達にも紹介した。

 

友達も雪ちゃんの可愛さに魅了されて表情がほぐれた。

 

雪ちゃんは、本当に愛らしかった。そして驚くほど人懐っこかった。

 

人間が近づくと、近寄ってきて餌をねだる。

 

二本足で立って、両手をくいっくいっと動かす。

 

そして人間が餌をつまんで雪ちゃんの口元に近づけると、両手でひょいってとって目を細めながらもぐもぐと食べた。

 

そのしぐさがかわいくて、ペットに関わらまいと思ってた私もついついその可愛さに魅了されてしまった。

 

夜は元気よく回し車をひたすら回していた。

 

夜遅く帰ってきた夫曰く、「俺より走れるんじゃね?」って程走っていたらしい。

 

娘は、年末に会うおばあちゃんにも、メールで雪ちゃんの事を紹介してたらしい。

 

「ばあばにはやく雪ちゃんを見せたいなあ。」

 

そういって心から年末を楽しみにしてた。

 

雪ちゃんはひたすら元気で、よく動いて、何よりかわいかった。

 

生まれて2カ月ぐらいだからまだ小さかった。

 

小さくて透き通るように毛がほやほやで、丸くなって寝る姿はおもちみたいだった。

 

娘は、毎日、餌やりをするのを楽しみに学校から帰ってきた。

 

ある12月のひどく寒い日、いつも通り、娘は小学校に行く前に雪ちゃんの様子を確認してから登校した。

 

私は、いつものように家にいて、パソコンを開いていた。

 

この日は寒かった。

 

「ハムちゃん大丈夫かなあ」

 

そう思って、子ども部屋にいるハムちゃんを見に行った。いつもみたいに丸まってオモチみたいになって寝ている。私はハムスター用のヒーターを雪ちゃんの下にちゃんとあるか確認して、隣の部屋に行った。

 

あまりにも寒かったから、普段は暖房をつけるのをためらう私だったが、耐えきれずリモコンに手を伸ばす。

 

ピッ。

 

あーあったかい。

 

いつもの一人の時間が流れた。

 

娘が学校から帰ってきた。

 

さっそく、日課となったハムスター餌やりの準備を始めていた。

 

「人参切っていい?」

 

「いいよー」

 

雪ちゃんの為に、台所でさいころ状に雪ちゃんが食べやすい形に人参を包丁で丁寧に切る。

 

切った人参をもって、子ども部屋に行った。

 

「おかーさん」

 

「何?」

 

「雪ちゃんが朝見た時のまま動いてない」

 

「えっ?」

 

私はドキッとした。

 

もしかして、寒すぎて冬眠しちゃった?

 

私はドキドキしながら冷静に、ハムスターの様子をみた。

 

ゲージのすみで丸まっている雪ちゃんを手でなんとかとり、様子を見た。

 

ヤバイ・・・本当に動かない。

 

「カイロ持って来て!」

「うん!」

 

娘はてきぱきと動いた。

 

私は携帯で、「ハムスター、冬眠」と検索して、必死に何とかしようとした。

 

手でカイロと一緒に雪ちゃんを包み、必死に息をハアハアと吹きかけた。

 

しばらく吹きかけた。

 

結構吹き続けた。

 

ずっと心臓がどきどきしていた。

 

たぶん娘も同じだったと思う。

 

だけど・・・雪ちゃんは、ピクリとも動かなかった。

 

私は雪ちゃんの少し開いた目をよく観察して観念した。

 

もう、その黒い目にはかつての雪ちゃんの瑞々しい潤いはなかった。

 

明らかに、もう死んでいた。

 

「・・・ごめんね、もう雪ちゃん死んでるわ。冬眠じゃなくて死んでるわ」

 

次の瞬間、娘の顔が崩れる。

 

「何で?ちゃんと世話したのに!ちゃんと書いているとおり世話したのに!」

 

涙をぼろぼろ落としながら、言う。

 

「ごめんね。おかあさんのせいだわ。おかあさん、ずっと家にいたのに気づいてあげられなかったから」

 

私は娘に責められたかった。

 

それで少しでも娘の辛さをやわらげれるなら、責められてもよかった。

 

だけど、娘は私を責めなかった。

 

「何で?何で?」

 

声を出さずに、ひたすら涙を流した。

 

ぼろぼろ流した。

 

「また新しいハムスターお母さんが買ってあげるから。」

 

私は強い目で、娘を見つめながら強く言った。

 

「いや!雪ちゃんじゃないといや!」

 

そういって娘は泣いた。

 

私の心が、ギューーっと痛くなった。

 

家に遊びに来てた次女の友達が、どしたどしたとやってきた。

 

「ハムちゃん死んじゃったんだ」

 

私は平静を保って話した。

 

「えーかわいそー」

 

口々に言った。

 

「かわいそうでしょ。」

 

私は言った。

 

「でも、また買えばいいじゃん。」

 

次女の友達が言った。

 

「・・・・そうだね。」

 

そうだ、そうなんだ。

 

また、飼えばいいんだ。

 

いや、そんな話じゃない。

 

矛盾した声が私の中で響く。

 

私は今の娘の気持ちが痛いほど分かってしまう。

 

「じゃ、あっちの部屋で遊ぼ!」

 

さっきまで神妙な顔をしていた次女と友達はカラっとして隣の部屋に走っていった。

 

分かるよ。娘にとっては、雪ちゃんは唯一無二だったって。

 

あれだけ、手間暇かけて世話した雪ちゃんは、娘にとって、他のハムスターと一緒なはずがない。

 

だからこそ、私はズキズキと痛かった。胸の奥が、ズキズキと苦しかった。

 

あると信じてやまなかった雪ちゃんと娘との未来が失われてしまった。

 

前触れもなく突然失われてしまった。

 

昨日まであんなに元気でもふもふで走り回っていた雪ちゃんが。

 

今は抜け殻。

 

そのコントラストが心に突き刺さる。

 

ハムスターの寿命の2年間、ニコニコ餌やりしながら過ごす娘の日々は失われてしまった。

 

ばあば達に雪ちゃんを見せて喜ぶ娘の未来は失われてしまった。

 

私はなんだか、自分が凄い罪を犯した気になった。

 

私が早く気づいて、雪ちゃんを温めていれば。

 

ずっと家にいたんだから。

 

ヒーターを確認した時、もっとしっかり雪ちゃんを確認しておけば。

 

電気代なんか気にせずにもっとポカポカにしていれば。

 

間に合ったかもしれない。

 

あんな小さいハムスターヒーターなんかじゃ温まるはずないのに、なんで今まで気づかなかったんだ?

私はその時隣の部屋で暖房をつけてぬくぬくしていた私を懲らしめてやりたいと思った。

 

でも、こんな責めは、すべて娘にも繋がってしまう。

 

何故なら、ハムスターの世話の責任はすべて娘が負う事を約束の上で飼ったのだから。

 

私は確かにこういった。

 

「私は絶対世話しないからね!何かあっても、絶対私のせいにしないでね!」

 

はっきり言った。

 

いや、でも雪ちゃんの死を全部娘の責任にするのはあまりにも無慈悲だ。

 

そんなことしたくない。

 

そして、結局のところ、雪ちゃんの本当の死因なんて手の届かない真理なんだ。

 

寒さのせいじゃないかもしれない。心臓発作かも。もともとの寿命かも。

 

そして、そんなことをひたすら考えたところで雪ちゃんは帰ってこない。

 

とにかく、雪ちゃんは死んだ。

 

その真実がひたすら残酷に目の前に横たわる。

 

もう空っぽになった、カイロと布に包まれた雪ちゃんが目の前にいる。

 

悪夢じゃない現実としている。

 

雪ちゃんは死んでしまったのに、私は、雪ちゃんの部屋の暖房を消すことはできなかった。

 

どうしても消すことはできなかった。

 

「・・・明日、学校からかえったら、雪ちゃんを埋めに行こう。」

 

私は、目を腫らしてぼんやりとした娘に言った。

 

その日の夜は、死んだ雪ちゃんと同じ部屋で子どもたちは寝た。

 

仕事から帰ってきた夫に雪ちゃんの死を伝えた。

 

私は馬鹿みたいに泣いてしまった。

 

自分でも嘘みたいだ。

 

自慢じゃないが、私はペットの死で今まで泣いたことなんか一回もなかった。

 

小学校の頃たくさんハムスターを飼ったことだってあった。だけど、泣いたことなんて一回もない。

 

私は動物の為に泣くような人間では全くなかった。

 

一体今回はどういう事だろう?

 

話を聞いた夫が平たんに言った。

 

「そんな泣く程?俺の方が世話してたじゃん」

 

「でも、私がいちばん雪ちゃんと家にいたし、やっぱりどうしても愛着がわいてしまうものよ。凄く、凄ーくかわいかったし。」

 

「まーかわいかったけどね。俺は、子どもの教育が目的でハムスターを買ったから、いつ死んでもよかった。」

 

私はその冷静さに少し驚く。

 

「・・・あなたのそういうところ、本当に要領が良くて強いと思うわ。明日慰めてあげて。かなり落ち込んでたから。」

 

「うーん、どんな言葉をかけようかなぁ。」

 

夫は娘のことを考えた。

 

私は私が死んだ時も、夫にこんな風であって欲しいと心から思った。

 

 

朝が来た。

 

天気はどんよりとした曇り空。ひどく寒い日だった。

娘はなんとか学校に行った。腫れた目で、ぼんやりしながら学校へ行った。

 

そして、学校から帰ってきた娘と私は死んだ雪ちゃんをふんわりと両手に抱えて外に出た。

 

雪ちゃんのお墓をつくるために。

 

私は家の近くだと、思い出しちゃうから、少し離れた場所に埋めよう、と提案したけれど、娘が嫌がったので、家のすぐ近くに埋めることにした。

 

場所を決めて穴を掘った。深く深く掘った。

 

「どうしたの?」

いつも娘と遊ぶ友達が駆け寄ってきた。

「雪ちゃんが死んじゃったんだ」

「え!?そうなんだ」

 

しばしの沈黙。

 

その友達は雪ちゃんを紹介したことのある友達だった。

一緒に雪ちゃんに餌をあげたこともある。

 

「一緒にお墓つくるの手伝うよ。」

 

そういって、私と娘と、友達は穴を掘った。

 

そしてその穴の底に雪ちゃんをそっと置いた。

 

娘が、雪ちゃんの為に切った一かけらの人参とペレット一粒を雪ちゃんの小さな小さな手の近くにそっと置いた。

 

「上にかける砂は、砂利のないサラサラな砂がいいよ」

 

そう友達が言ったので、私達三人は、サラサラの砂を両手ですくって、さらさらと、雪ちゃんの上に静かに落とした。無言でひたすら交互にサラサラ落とした。

 

さらさら・・・

さらさら・・・

さらさら・・・

 

まるで何かの儀式の様だった。

 

どんよりとした天気の下、雪ちゃんの姿は土の中へと消えた。

 

私はふと、雪ちゃんはどこに行ったのだろう、と思った。

 

そんなの、いくら考えたって真実なんて分からない。

 

だけど、一つだけ真実がある。

 

それは、私の心に雪ちゃんの存在が刻み込まれたってこと。

 

きっと、娘も同じだと思う。

 

雪ちゃんは、私と娘にとっては特別な存在になった。

 

他の人から見たら、ただの、大量にいるネズミ一匹かもしれないけれど。

 

どう考えても、雪ちゃんは特別な存在になってしまった。

 

たった、2カ月しか一緒にいなかったのに。

 

いや、もしかしたら、2カ月しかいなかったからこそ、特別な存在になってしまったのかもしれない。

 

雪ちゃんとの思い描いた未来は、思い描いた未来のまま固定された。

 

私には、穴の底に小さな人参と横たわる雪ちゃんのその時の映像が、脳に深く刻まれてしまった。

 

まるでギャラリーの絵画の様に、その光景は私の中に居座ることになった。

 

もしかしたら、雪ちゃんは命と引き換えに、私に愛の真理のヒントを教えてくれたのかもしれない。

 

そんな都合のいい美しい話を創造したりする。

 

雪ちゃんの死は無駄にはしない。

 

失ってしまったものは大きいけれど、その分違う形で取り返す。

 

だから、私はきっと今、こんな文章を必死に書いている。

 

どんなに今では鮮明に思い出せることも、心にどんなに刺激的だったことも、時の流れとともに薄れていくのを、年の功で知ってしまっているから。

 

鮮明に思い出せるうちに書き残すよう、何かが私を駆り立てる。

 

もしかしたら不条理なことで子どもを失って本なんかを出版する親はこんな風な心境かもしれない。

 

あるはずだった未来を残して、突如この世を去るのは、この世にまだいる人に多くの何かを残してしまう。

 

そういえば、私の若い頃の若い友人も雪の事故でこの世を去った。

 

あの時も、相当つらかった。

 

私にとって「雪」と「凍死」はすっかり、「儚く侘しい死」の隠喩的ワードになってしまった。

 

そんなこんなを雪ちゃんの死からぽつりぽつりと連想して考えた。

 

娘は今でもこんなことを言う。

 

「今でも、雪ちゃんが世界で一番かわいいハムスターだと思ってる」

 

私もそう思う。

 

・・・・・そんな、ある家族の初めてのペットの話。

 

 

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