R7.6.1
ペットのハイマル君が死んだ。
その日の昼にブロッコリーをあげようとして、だけど夜にあげよう、って思ってたのに。
長女が寝る前に餌をあげようとした時、「あれ?ハムちゃん生きてる?」って言った。
私は見た。
「あ、多分死んでるわ」
見てすぐにわかった。
いつも寝ている、ゲージの隅の定位置に丸まったお尻が見えるのだけれど、いつもの緩やかな呼吸の波のような動きが、明らかになかったから。
寝ようとしていた、4年生の次女と1年生の息子が起きてきた。
みんなで、死んだハイマルをみた。
長女は昨日の夜、手に乗せたらしい。
その時は元気だったみたい。
だけど、今は中身がどこかへ行ってしまった。空っぽのハイマル。
頭が混乱する。あの愛らしいフワフワのハイマルは一体今、どこにいるのだろう?
みんなで泣いた。
一年生の息子が泣いていたのは、正直おどろいた。
手に乗せた時、甘噛みをいっぱいするハイマル。
ブロッコリーを美味しそうに目を細めながら食べるハイマル。
変な水の飲み方をするハイマル。
一回脱走して、台所でトコトコ歩いていたハイマル。
お尻の穴丸見えの変な格好で眠っていたハイマル。
全然動きが素早くないハイマル。
どこかおっさんっぽいハイマル。
頭の中がハイマルでいっぱいになった。
きっと子ども達の頭の中もハイマルでいっぱい。
ハイマル、ハイマル、ハイマル、
でも、ハイマル2年も生きてくれた。
ゆきちゃんは3ヶ月ぐらいで死んじゃったけど。2年も生きてくれただけで嬉しいはずなのに。
やっぱり、ハイマルが死ぬのはとても悲しい。これって欲張り?
暗闇のベッドの中で、次女と息子が「ハイマルのことで頭がいっぱい、今日寝れないかも」と言った。
私は二人をギュッとした。
「大丈夫。今頃ハイマルは星空のアスレチックで遊んでるよ。大好きなブロッコリーを沢山たべて。ひまわりの種もきっといっぱいあるよ。」
これが子ども達に対する嘘かどうかなんてどうでもいい。どうだっていいんだよ。そんなの。
二人はちょっと笑った。
そして、すぐに寝た。
すぐに寝るんだ、って思ったけど、子どもはそんな感じがいいよなって思った。
次の日の朝、ハイマルのお墓を学校に行く前に子どもたちと作った。
「ハイマル、バイバイ」
といって穴のそこのハイマルに土をかけた。ハイマルの姿が一気に見えなくなった。埋めた後、そこに長女が丁寧に山を作って、そのてっぺんに花を添え、ヤツデの葉をちぎって山の周りを囲った。手と靴が泥だらけになっていた。
家に戻りながら、息子がポツリと言った「ハイマル、今までありがとう」
私は、そんな言葉が自然とでる息子に驚いた。
成長したなぁ、と思った。
「ハイマル、今までありがとう」
私も口に出していってみた。
目の前にハイマルがいるような気がした。
ハイマルが今、どこかで楽しそうに暮らしてる…
こんな考え、真実はそんなわけない、って心のどこかではわかってる。
私も、きっと子どもも。
だけど、そう思うと、心が楽になる。真実かどうかなんて、そんなに重要かなぁ。そもそも真実って何?
弱い私は、ハイマルがこの世界にはもういないって思っちゃったら、心が押しつぶされそうになるから。
心がいたくなるから。
だから、創作する。ハイマルが死んでぽっかり穴が空いた分を、創作で埋める。そう、これは自分の為の行為なんだ。決してハイマルの為だなんておこがましいことはいえない。まだこの世界に生きている私のためなんだ。ハイマルを愛した私の為の行為なんだ。
楽しくどこかで生き生きと遊んだり、もぐもぐと美味しそうに食べているハイマルを創造する。次は私の心の中でハイマルを飼いはじめる。
弱くちっぽけな自分を慰めるために、そして、ハイマルの肉体がない、この世界に、少しでもハイマルの存在の痕をつけるために、私は創作しようと思う。だから、今も文章を書いている。
ハイマル、私は君を忘れたくない。
だから、忘れないように、努力するよ。
かわいい、かわいいハイマルを愛してるから。
私の創った世界では、ハイマルは幸せに暮らしている。ずっと、永遠に。
そういう行為は誰にもとめられない。
世界を創るって…
こういうことな気がするよ。
冷蔵庫の中にはまだ、ハイマルにあげようと思っていた小さいブロッコリーが、さみしく横たわっている。
あ、泥だらけになった長女の靴を洗わないとな。
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